保名(やすな)

3月終わりの日曜日、友人の踊りの会に行ってきた。
場所は国立劇場。踊りをやっているのは知っていたが、
こんな大劇場で踊る程とは、知らなんだ。

舞ったのは狂乱舞踊の代表「保名(やすな)」
貴公子、安倍保名は恋人、榊の前(さかきのまえ)が目の前で
自害するのを見てショックで狂ってしまう。
亡き恋人の幻をおい、春の野をさまよう姿を舞踊にしたもの。


保名
保名のイメージ写真(ご本人ではありません)

つがいの蝶をうらやんだり、落ちている小袖を見つけて
「榊の前がいた!」と嬉しそうに駆け寄る姿が哀れを誘う。
これといって変化のない、あくまでも風情を見せる踊りだが
だからこそ難しいのでは?と、素人の私でもそう思う。

「夜さの泊まりは どこが泊まりぞ 草を敷寝のひじ枕、ひじ枕、
 ひとり明かすぞ 悲しけれ」

(今夜の泊まりは草をしいて肘を枕に寝る野宿で一人で寝るのが
 悲しい)

何ともせつないストーリーだが、春の野の明るさと恋に狂った
保名の姿が美しい舞踊であった。

踊ったご本人の感想を翌日聞くと「ここはこうする筈だったのに」
とか「あそこで滑らなければ・・・」と後悔ばかりで「1、2日は
不愉快になっちゃう」そうだが、いや〜 どうしてどうして
長袴を履いてあそこまで踊れれば立派なものだと思うのだが・・・。

だが「次はもっとうまく」と思う気持ちが上達の道なのかもしれない。
打ち込めるものがあるのは幸せなことだ。
彼女がいつもエネルギッシュで輝いているのは、きっと好きなものが
あるからだと確信したのでありました。


さて、この日のきものは

小紋2

私にしては珍しい小紋。
伊予縞小紋という。


小紋の柄

薄いグレーとピンクのよろけ縞が複雑に
からんで柄に表情を出している。


お太鼓

帯は黒地にちょっとエスニックな柄の西陣。



ところで、母が昔 清元をやっていて一度だけ舞台で歌ったことが
ある。その曲が「保名」だった。
私はまだ十代だったと思う。
清元に興味はなかったが、母が何回も練習していたのを聴くとはなし
聴いていたせいだろう。
出だしの「恋よ恋、われ中空に、為すな恋」という文句を覚えて
しまって、意味もわからず口ずさんでいたものだ。

黒の紋付を着た舞台上の母が美しかったことは、しっかり記憶に
刻み込まれているが、長い年月の間に忘れていた。
今回、彼女のお陰でその思い出が蘇ったのは、思いがけないギフト。
忘れているようでも、何かのキッカケで思い出すものなのだなぁ。
と、ちょっとセンチになって会場を後にすると、お堀の桜も春雨に
しっとり濡れていた。






コメント

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清元ってすごく難しいですが、いちばん色気、色事に向いた唄だと思います〜。
踊る方も「保名」をなさるなんて、たいしたものだと思います。
(朋百香さん、いつか「保名」絵に描いてみませんか?)
ところで、お召しの小紋、うふ!着心地はいかがでしたか?
朋百香さんらしいお好みで小紋というのがステキです。
いつか小紋ごっこやりたいですね〜(笑)

tomokoさま
そうですよね、清元って難しいですよね、節回しとか。

小紋、やっぱりやわらかものは紬に比べると着慣れないせいか
最初ちょっと着にくかったですが、2、3回練習して慣れました。
シボがある布なので意外とくずれにくいです。
やりましょ、やりましょ、小紋ごっこ(笑)

こんにちは! 小紋ごっこ、私も混ぜてくださーい。なにぶん、着る機会がなくて(苦笑)。
保名のこの写真を見て、私は上村松園の「花がたみ」を思い出しました。愛する人を想い錯乱しちゃった女性の絵……。春というのは狂気さえも美しく、また妖しく演出するものですね。
黒紋付のお母さま、どんなにか凛と美しかったのだろうと思います。そういうお母さまを見ていた記憶が、朋百香さんの今の着物好き、和物好きのスピリットをつくっているのでしょうね。

絵美さま
そっかー、言われるまで気付きませんでしたが、確かに
そうかも・・・。子供の頃は料理屋という商売が嫌い
でしたが、どっぷりその中で生活していたので、
知らず知らずに和物好きの中核は作り上げられていった
のですね、きっと。あの頃は和室、きもの、器は普通のこと
でしたけど、今思えば随分と素敵なものに囲まれて
いたのだな〜と。

こんばんは
小紋ごっこ・・私も~~。(着ていない)
和室、着物、清元、器・・・願ってもなかなか経験できない環境が朋百香さんの幼いころに、あったのですね。
踊りをなさっているご友人。。。
表現をするって、どんな手法でも、すごいことだと思います。
表現できるって、羨ましいです。

とうこさま
先日、彼女に会う機会があったので、いつから踊りを
やっているのか聞いたら、3歳の時からですって。
つまりもう60年近く踊っている訳で、それだけ続けるって
凄いな〜と思いましたが、考えてみたら私も物心ついてから
ずーっと絵を描いているので、好きな事って続けられるんです
よね、きっと。まあ、家族の理解と協力あってこそですけど。
幸せなことだと思います。