傾く若者、今昔

「今時の若い者は・・・」とは 熟年がよく使う言葉だが
これは昔からずっと言われてきたようだ。

「江戸時代には月代(さかやき)を剃らない連中が現れた。
髪を全体に伸ばして登頂で束ねたり、前髪を残し中剃りして
茶筅曲(ちゃせんまげ)や銀杏髷(いちょうまげ)を結った。
前髪を残すのは若者達に多い。
もともと前髪を残すのは子供の髪型だ。
ところが江戸初期には元服を過ぎても前髪を剃らない若者が
少なくなかった。
これは若衆歌舞伎の影響といわれる」
「江戸のダンディズム」河上繁樹・著より

当時、前髪を剃らずに女の様な派手な着物を着て、並外れた
長い太刀をかつぐ若者達の姿。これはは単なる流行ではなく、
刀1本で一国一城の主になることも夢ではなかった戦国の世も
終わり、夢をたたれた若者達の行き場のない心情の現れでは
なかったか・・・?
閉塞した時代に生まれた若者がファッションや髪型で
自己主張するのは今も昔も同じ、ということなのだろう。

しかし、風俗的に見ると実に面白い。
「彦根屏風」や「阿国歌舞伎図屏風」には、当時の人々が
生き生きと描かれている。
えーっ、本当にこんな派手な格好していたの〜?
という様な人々ばかりだ。
阿国というのは、ご存知の様に出雲の阿国。
小袖に袖無しを重ね、刀をかついだ阿国の踊る姿が描かれている。
その異相の姿を若者は真似たのだ。
もはや戦う道具ではなくなった刀は、傾きファッションの重要な
アイテムとなり、かぶき者を気取るポーズには必須。
その意匠にも凝った。
それは桃山時代の武将達の華やかな腰物に対する憧れであったのかも
しれない。


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刀を杖代わりに寄りかかってポーズをとる若衆。
(彦根屏風より)


時代を問わず、洋の東西を問わず、若者は自由に装い、自分の
存在をアピールする。
それが若者の特権でもあるのだ。
実は私の甥も(別にロッカーでもないのに)ロッカーの様な格好を
している。
私はもう何年も片目が隠れそうな前髪をバッサリ切りたくなる衝動を
押さえている。
しかし彼も親や世に中にささやかな抵抗をしているのだな・・・と
思うとなにやら哀れに思えてくる。

私が卒業した頃は誰でも就職出来たし、もっと夢があった気がする。
一生懸命働けばそれなりに評価もされた。
今は運良く仕事があっても働きに見合う給料が貰える訳でもなく、
これだけ進化した世である筈なのに、私には彦根屏風の若者と甥っ子が
重なってみえる。

やがては彼も大人になり、普通のオジサンになってゆくのだろう。
今の内だ、せいぜい大人が眉をしかめる格好をして街を歩くかいいさ。






コメント

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若いスタッフにも全く片目を覆っている子が、、、私もばっさり切りたくてうずうずしています。「見えるの?」「見えないけど片方あれば大丈夫です」うーん・・・朋百香さんみたいに優しく見守らねば、と思いました。確かに今の若者を取り巻く環境は厳しいですね。そして、江戸の昔から綿々と続く、若者の成長への一歩なのだと改めて思いました。(私たちも、ありましたものね)
昔の文化の本を見ると、江戸時代のほうが、自由な発想の服飾が多かったような。江戸小紋もしかりですかしら。

とうこさま
村上道太郎氏(草木染め染織家)の本を読むと昔は手間ひまかけて、
植物(自然)の色や人の想いで布を染めていたのですね。
今は機械や化学染料で大量生産の時代ですから、自ずと出来てくる物の
質が違いますよね。
それに憧れて、きものが好きなのかな〜と思います。
布の持っている力がぜんぜん違いますから。
タイムマシンがあったら、かの時代に行って人々の暮らしを
観察してみたいです。

以前、女子美所蔵の着物展を観たときにも、「傾く」ファッションが強烈な印象でした。江戸前期は特に柄が大きくて派手で…いきがって歩く若者像が目に浮かぶようです。
私が中高生のころは、スカートがひきずるほど長く、セーラー服のスカーフは見えないほど短いのがいわゆる不良ルックでした(笑)。「傾く」ファッションも時代ごとに違って面白いですよね。

おお!

丁度昨日、NYTimesのファッション特集の小冊子で「The In Crowd」というページがあり、尖がったティーンエイジャーファッションが載っていて、羨ましい!と思ったばかりでした。
http://www.nytimes.com/interactive/2012/10/21/t-magazine/21well-coats.html?smid=fb-share
若い時にしかできない破天荒、あるんですよねぇ。
とは言え、昨今の「下着ですか?」とか「パンツ見えてるよ」(パンツ(ズボン)ズリ下げ)スタイルを見ると、苦々しく感じてしまうのですけど・・・

絵美さま
「傾くファッション」本当に強烈ですね〜。こお〜んな 格好をしていた人々が
普通に生活していた江戸初期の頃ってどんなだったのでしょう?
考えただけでワクワクしてしまいますが、もしその頃生きてたら、私も「近頃の
若いもんは・・・」って言っていたかもしれませんね(笑)
そんな華やかな時代も「武家諸法度」が発令されて終わってしまうのですよね、
歴史って面白いです。

りらさま
いいですね〜、若いって。 「若い」で許されることって、ファッションだけで
なく結構ありますものね。
でもおっしゃる通り、いくら「傾いて」いても、そこに美しさがなければ。
皆んながズボンを下げてパンツ見せたからって、横に習えでなく
もっと自分なりにみがきをかけてあか抜けて欲しいですね。
(って、アハハ やっぱりおばさんはうるさいですね)