その木戸を通って

もう30年も前のことになるが、山本周五郎に嵌まったことがあった。
「五瓣の椿」「つゆのひぬま」そして忘れられないのが
「その木戸を通って」

記憶喪失の娘が、ある日ふらっと主人公の元に現れ、恋をして
夫婦になり 子まで成したのに、ある日 またふらっといなくなる、
という悲しいお話。

日本人はどうもこの手の話が好きらしい。
昔から竹取物語、天の羽衣、鶴の恩返し、雪女など主人公の前に
理想の女性が現れるが やがて去ってゆくという伝説がこんなに
あるのだ。

これは何を言わんとしているのか・・・変わらぬものは何もないという
教訓か、愛する者を失う恐怖か、幸せは長続きしないということか、
変わらないのは人の世の無常のみ。

先日、たまたま「その木戸を通って」のDVDを見た。
古いもので、確か市川昆監督作品だったか。
本で読んだのとは また違った視覚から入ってくる物語は、竹藪の緑、
その葉を渡る風のそよぎ。
土を叩く雨の激しさ、から傘に踊るしぶき。
日本家屋の畳や土間の美しさ 等、古き良き日本の風景が土台となって
おとぎ話や伝説ではなく、本当にこんなこともあったかもしれない・・・と
思わせるのに十分な説得力をもって描かれていた。

これは人の心の闇を示唆しているのかもしれない。
誰でも一つや二つ、心に闇を抱えて生きているのではないか・・・。
そんな繊細な部分をくすぐられて、何とも言えない懐かしさと美しさと
怖さを覚えるのではないのだろうか・・・。

久しぶりに山本周五郎の本をまた、読んでみたくなった。


110602_173458[1]

コメント

非公開コメント

こんにちは! お写真の木戸はすいれんさん宅? 今はもう、こうした木戸はなかなか見られないですよね・・・。そういえば、うちの父方の実家にも小さな木戸があったなあ。祖父が亡くなったら家ごと壊されてしまいましたが・・・。

絵美さま
長平庵の木戸です。いいもんですよね、木戸って。 ドアみたいに、全く向こうが見えない訳ではないし・・・かといって、ちゃんと境目にはなっている。木だから当然、朽ちてくるけど、そこがまたいいんです。
もう木戸のある家って少ないんでしょうね・・・。